学校教員をしていた頃、全学年の赤点一覧や得点分布を見る機会がありました。すると毎回思うことがあります。数学は赤点が最も多い教科です。さらに10点、20点といった極端に低い点数も数学が目立ちます。そのため、「数学は難しい教科」という印象を持っている生徒はとても多いでしょう。
でも、僕はそうは思っていません。もちろん、生まれつき理解に時間がかかる人はいます。ただ、「授業についていけない理由」が先天的な理解力不足だった生徒は、僕はほとんど見たことがありません。多くの場合、原因は過去の積み重ねです。例えば、文字式の計算が十分ではないために方程式が理解できない。方程式が理解できないから比例・反比例もよく分からない。数学は積み木なので、一段崩れるとその上はどんどん理解しづらくなります。
さらに厄介なのは、多くの生徒が「自分はどこでつまずいたのか」を理解できていないことです。単純に今習っている内容が自分には難しすぎるのだと思い、「自分は数学が苦手なんだ」と思い込んでしまう。でも、ほとんどの場合、それは勘違いです。
僕の塾には通知表1で入塾してくる生徒も珍しくありません。それでも半分以上の生徒は3まで上がりますし、中には4を取る生徒もいます。僕が特別な指導をしているわけではありません。その子が理解できなくなった地点まで戻り、土台を作り直しているだけです。
逆に、僕が難しいと感じるのは国語です。もちろん国語も伸びますが、数学ほど原因を特定するのが簡単ではありません。読解力や記述力は、読書習慣や語彙、経験など様々な要素が絡みます。「ここを直せば伸びる」という再現性は、数学ほど高くないと感じています。
そして、不思議なことに、数学が伸びると他の教科も伸び始める生徒が少なくありません。社会は歴史のストーリーを理解すればいい。理科は仕組みを理解すればいい。英語はルールを覚えればいい。数学で「分からないものを一つずつ理解していけば必ずできるようになる」という成功体験を積むことで、他の教科にも同じ姿勢で向き合えるようになるのです。
数学で10点しか取れなかった生徒が60点取れるようになる。その意味は、受験以上に大きいと僕は思っています。10点ということは、学校の授業内容をほとんど理解できていない状態です。毎日授業を受けても分からない。先生が何を説明しているのかもよく分からない。そんな状態が何か月、何年も続けば、勉強が嫌いになるのは当然です。
一方で、60点取れるようになると、学校の授業内容は大方理解できるようになります。授業は「分からない時間」ではなく、「考える時間」に変わります。先生の説明を聞き、自分で考え、理解しようとする時間が増えていくのです。
そして、僕が本当に価値があると思っているのは、この「考える時間」です。
知識は忘れることがあります。でも、自分で考え、理解し、新しいことを学ぶ力は、その後の人生でもずっと使い続けます。
だから学力そのものよりも、「考える時間」をどれだけ積み重ねられるかの方が大切だと僕は思っています。考える時間が増えれば増えるほど、人は学ぶ力そのものを身につけていきます。
だから僕は、数学は一番難しい教科ではないと思っています。正しい順番で学べば、一番再現性高く成績を伸ばせる教科です。そして数学は、点数を上げるための教科ではありません。子どもたちに「考える時間」と「学ぶ力」を与えてくれる教科なのです。


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