日本の学校教育の良さ

僕は公立小中高に通い、その後、教員として中高一貫校でも働いていました。学校現場にいたからこそ、日本の教育には課題も少なくないことは認識していますが、逆に日本の学校教育には世界に誇れる部分があると思っています。

僕の思う学校の本質とは「できない子をできるようにすること」だと思っています。ただ、より正確に言えば、公教育とは「子どもの学ぶ権利を保障するシステム」なのだと思います。もし、学校がなくても全員が勝手に学び、勝手に育ち、勝手に社会で生きていけるなら、そもそも公教育という仕組み自体がそもそも必要ありません。

でも現実は違う。
家庭環境も違う。経済状況も違う。得意不得意も違う。

放っておいても伸びる子だけで構成されているわけではない。だからこそ、「誰一人こぼさずに社会へ送り出そう」とする仕組みが必要になる。僕は、日本の学校教育には、その思想がかなり強く残っていると思っています。

例えば日本では、地方でもある程度同じ教育を受けられます。給食があり、安全な学校があり、教科書があり、勉強が苦手な子も含めて社会の中に包摂しようとする。

これは世界的に見ると、決して当たり前ではありません。例えばアメリカでは、地域による教育格差がかなり大きいと言われています。裕福な地域では素晴らしい教育を受けられる一方で、そうではない地域との差も大きい。自由度が高い反面、「生まれた環境」が教育に与える影響も強いように感じます。

逆に、韓国や中国は、非常に受験競争が激しい印象があります。もちろん日本も受験競争はありますし、最近はやや過熱気味な部分もあると思います。ただ、それでも日本は、「競争だけ」に振り切ってはいない。勉強だけではなく、行事や部活動、人間関係なども含めて、「学校生活」そのものを大切にする文化が残っており「競争から外れたら終わり」という空気は比較的弱いように感じます。高卒でも働ける。専門学校もある。中小企業も多い。地域社会もある。

僕はそこも、日本の良さだと思っています。何をもって「できる」に値するのか。

そこを考えた時に、「社会で真っ当に生きていく力」というのは、多くの人が納得できる着地点だと思っています。僕は学校の役割として、「できない子をできるようにすること」をかなり重視しています。

そういう意味では、日本の学校教育には9割くらい◯をつけられると思っています。少なくとも、「全員を社会に送り出そう」という思想は、かなり強い。

ただ、残り1割の課題を挙げるとすれば、「社会で生きる力」の定義です。日本の学校教育は、良くも悪くも「他人に迷惑をかけない」を重視します。
満遍なく能力を身につける。
協調性を身につける。
空気を読む。
集団の輪を乱さない。

もちろん、それらは社会で生きていく上で大切です。ただ、その価値観が強く出過ぎているようにも感じます。

どんな会社に入っても、ある程度そつなくこなせるように。
周りの足を引っ張らないように。
迷惑をかけないように。

その方向へ最適化されすぎている。

ただ、今の社会は昔よりもずっと複雑です。

情報も多い。働き方も多様。価値観も多様。経済的にも、かつてのように「とりあえず真面目に会社へ入れば安定」という時代ではなくなってきています。

そんな社会の中で、社会に出たばかりの若者が、「誰一人困らないようにする」ことは、おそらく不可能です。だからこそ大切なのは、「困らないこと」ではなく、「困った時に立ち上がれること」なのではないかと思っています。

本当は、自分ではどうにもできないことに対して、「助けてください」と言えることも、立派な能力です。

甘えと助けを求めることは違うと思っています。自分でできることを最初から他人に投げるのは、甘えかもしれない。

でも、自分一人では解決できない問題に対して、適切な場所へ繋がれること。頼れる人を見つけられること。制度を知っていること。

それは、社会を生きる上で非常に重要な力です。

だからこそ、これからの教育には、

困った時に自分の身を守る知識。
健康や法律、お金についての知識。
そして何か一つでも「これが好きだ」と言える軸。

そういったものも必要なのではないかと思っています。満遍なく平均的にできることも大切です。

ただ、それだけでは、人は苦しい時に折れてしまう。「誰にも迷惑をかけずに生きる」ではなく、「困った時に助けを求めながら、それでも前を向いて生きていける」。

そんな力を育てることも、これからの教育には必要なのではないでしょうか。

それでも僕は、日本の学校教育は好きです。完璧ではありません。むしろ問題だらけです。

でも、「誰一人こぼさずに学ぶ権利を保障しよう」とする思想は、日本教育の大きな良さだと思っています。

そして、その土台があるからこそ、日本の教育はこれからもっと良くなれるとも思っています。

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