僕は生徒によく、
「目標時間までいかなくてもいいから毎日やろう」
と話しています。
勉強は量より質が大切だと思っていますが、だからといって勉強時間を軽視しているわけではありません。
ただ、僕が毎日やってほしい理由は少し違います。それは勉強の質を高めるためです。
人間の行動には二つのコストがあります。
一つはスイッチングコスト。何かを始めるためのコストです。
もう一つはランニングコスト。続けるためのコストです。
多くの人は、
「長時間集中できない」
というランニングコストばかり気にします。
でも実際には、
「勉強を始める」
というスイッチングコストの方が大きいことが少なくありません。
今日はやろうかな。明日にしようかな。
疲れたな。少しスマホを見ようかな。
そんなことを考えるだけでも意外と集中力を消費しています。
しかし毎日同じ時間に机に向かう習慣ができると、その判断が不要になります。
勉強を始めるために使っていたエネルギーを、勉強そのものに使えるようになるのです。
歯磨きをするときに、毎回気合いを入れる人はいませんよね。勉強もそれに近い状態を目指した方がいいと思っています。
だから最初は少しずつでいいと思っています。
毎日2時間やろう。
毎日3時間やろう。
そんなことを最初から目標にしなくてもいい。
むしろ、
「勉強を始めるハードル(スイッチングコスト)を下げるために今日もやろう」
くらいの気持ちで十分です。人間の集中力には限界があります。
僕も集中力が無限にあるとは思っていません。
ただ、毎日続けることでスイッチングコストは確実に下がります。
昨日まで10のエネルギーを使って勉強を始めていた人が、5のエネルギーで始められるようになる。
さらに3になる。
さらに1になる。
そうすると集中力の総量が変わらなくても、実際に勉強へ使える時間は増えていきます。
もちろん、無理やり集中力を高める方法もなくもありません。
例えばテスト前です。
明日テストがある。
成績が下がるかもしれない。
親に怒られるかもしれない。
先生に怒られるかもしれない。
そんな状況になると、普段は勉強しない人でも机に向かいます。だから、勉強しなかったら非常に怒られる環境を作るのも手にはなります。脳内ではノルアドレナリンという神経伝達物質が分泌され、集中力が高まります。
ただ、この方法には大きな欠点があります。
長続きしないのです。
常に不安。常に焦り。常にプレッシャー。
そんな状態を長期間続けることはできません。
だからどこかで限界がきます。これが恐ろしいのです。いわゆる燃え尽き症候群です。何をするにも無気力になってしまう状態が目的を達成する前か後にきてしまう可能性があります。
もちろん僕もこの力を全否定するつもりはありません。受験直前など、本当に必要な場面もあります。
ただ、僕はこのカードをできるだけ使わないようにしています。
使うとしても最後の最後です。恐怖や不安は短距離走には向いています。
でも長距離走には向いていません。
だから僕は、
「勉強しないと怒られるからやる」
よりも、
「勉強するとできることが増えるからやる」
という状態を目指してほしいと思っています。
勉強ができるようになれば、進路の選択肢が増えます。
仕事の選択肢も増えます。将来の自由度も増えます。
あるいは、限られた勉強時間で成果を出せるようになれば、部活や趣味や友人との時間にもっと時間を使うこともできます。
僕は勉強のために人生があるとは思っていません。
人生をより豊かにするための手段の一つが勉強だと思っています。
だから最初から長時間勉強することを目標にしなくていい。むしろ量だけを目的にしてしまうと危険です。
なぜなら、人は勉強時間を増やそうとすると、無意識に質を下げてしまうことがあるからです。
3時間机に向かうことが目標になると、
スマホを見ながら勉強する。
問題を解いた気になる。
分からない問題をただ眺める。
そんなことが起こります。勉強時間は増えているのに、学力は思ったほど伸びない。
そして、
「あれだけ勉強したのに全然できない」
「自分には才能がないんだろうな」
「どうせやっても意味がない」
そんな風に考えるようになってしまいます。
本当は才能の問題ではなく、勉強のやり方の問題だったとしてもです。
質の高い勉強ができるようになると、少しずつ成果が見えるようになります。
すると、
「意外とできるようになってきたな」
「もう少し頑張れば届くかもしれないな」
そんな感覚が生まれてきます。
焦る必要はありません。
まずは努力と成果が結びつく実感を得ること。そして勉強する意味を見つけること。
そうやって勉強する理由が見えてくると、不思議と勉強時間も自然に伸びていきます。
だから僕は、まず量より先に質を整えることが大切だと思っています。
まずは毎日少しだけやる。
習慣を作る。
勉強を始めるハードルを下げる。
そして勉強の質を高める。
僕はその方が、長く続く勉強法だと思っています。


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