教育費の話になると、「どれだけお金をかけるべきか」という議論になりがちです。
幼児教育。中学受験。英語。プログラミング。留学。
SNSを見れば、「子どものためにもっとやらなければ」という情報が次々と流れてきます。
もちろん、教育にお金をかけること自体を否定したいわけではありません。僕自身、中学生向け塾を経営していますし、高校教師もしていました。幼児向けのスイミングスクールのコーチや、小学生向けのプログラミング教育に携わったこともあります。大学生向けに教育についての講演をしたり、簿記を教えたりしていた時期もありました。
ただ、教育現場を長く見てきて思うのは、
「どれだけお金をかけたか」よりも、「どの時期に、何に時間とお金を使ったか」の方が、ずっと大切なのではないかということです。
僕の中では、子どもの成長にはそれぞれテーマがあります。
幼児は愛
最近はモンテッソーリ教育など、「幼児教育によってこれだけ成果が出た」という話をよく見ます。
もちろん効果が全くないとは思いません。ただ、僕は少し疑問も感じています。
というのも、そもそもそういった教育を受けられる家庭は、多くの場合、
- 時間的余裕
- 経済的余裕
- 教育への関心
を持っていることが多い。
つまり、「モンテッソーリ教育だから伸びた」のか、「もともと家庭環境が整っていた」のかは、簡単には分からないと思うのです。
むしろ幼児期に大切なのは、もっとシンプルなことではないかと思っています。
どれだけ話しかけたか。
どれだけ笑いかけたか。
どれだけ「あなたに関心がある」と伝えられたか。
僕は学校の正規教員を辞めた後、2年ほどスイミングスクールのコーチをしていました。担当は幼児が一番多かったです。その中で感じたのは、水泳の技術指導以前に、「この先生は自分を見てくれている」と感じられることの大切さでした。だから僕は、一人一人に積極的に話しかけるようにしていました。
名前を呼ぶ。
目を見て笑う。
小さな変化に気づく。
たくさん声をかけるほど、逆に子どもの方から話しかけてくれるようになります。
「今日はお昼におにぎり食べた」
「きょうようちえんでね…」
そんなふうに、少しずつ自分のことを話してくれる。そして、幼児を見ていて本当に驚くのが、成長の速度です。
3ヶ月前までほとんど話せなかった子が、気づけばペラペラ話せるようになっている。たった三ヶ月で!?
中高生を見ていても、ここまで短期間で大きく変化することはありません。幼児期は、それだけ脳も心も急激に成長している時期なのだと思います。
そして面白いのが、こちらが変化を見つけるほど、また話す内容が増えていくことです。
「髪切った?」
「今日は元気だね」
「前より潜れるようになったね」
そうやって関心を向けると、子どももまた反応してくれる。するとさらに会話が増える。
僕は、この循環こそが、幼児期の成長のタネなんじゃないかと思っています。
高額な教材や早期教育以前に、
- 自分を見てもらえている
- 自分に関心を持ってもらえている
- 安心して話せる
という感覚。
教育費を稼ごうとするあまり、子育てそのものを置き去りにしてしまったら、本末転倒です。教育経済学という分野では、「人生に最も大きな影響を与える時期は幼少期だ」と、多くの専門家が口を揃えて言います。でも、それは必ずしも「高額な幼児教育を受けさせろ」という意味ではないと僕は思っています。幼児期に本当に必要なのは、高額な教育課金というより、「安心感」なのではないかと思っています。
そして、そのためには両親とも余裕が必要です。
育児支援の制度を知ること。
働きすぎないこと。
子育てを犠牲にしてまで、お金を追いすぎないこと。
両親が疲弊している家庭で、子どもだけが健やかに育つのは、なかなか難しいと思っています。
小学生は好奇心
よく「小学生のうちから塾に入れた方がいい」と言われます。特に中学受験は、年々過熱しているように感じます。
もちろん、中高一貫校に行くメリットはあります。東大や国立医学部など、一部の進路では、カリキュラム的に中高一貫校が有利なのも事実だと思います。
ただ、全員がそこを目指す必要があるのかと言われると、僕はそうは思いません。自分の塾には公立中学校の生徒も多く通っていますが、後から大きく伸びる子には共通点があります。
それは、好奇心が強いことです。
小学生の時点での学力は、確かに中学受験組に及ばないこともあります。でも、まだ焦る必要はない。
むしろ、中学受験に全振りしてなんとか入学したものの、その後いわゆる「深海魚」になってしまうケースも見てきました。深海魚というのは、中高一貫校に入学した後、授業についていけなくなり、成績下位で長く低迷してしまう状態のことです。
特に塾屋として僕が中学受験に振り切っていないのは小学生という発達段階そのものの影響が大きいからだと思っています。発達心理学者のJean Piagetは、子どもの思考の発達段階を研究しました。小学校高学年頃から、「抽象的・論理的に考える力」が徐々に育っていくと言われています。
例えば、中学受験では「比」の概念が頻繁に出てきます。
これは単なる計算ではなく、
- 関係性を抽象化する力
- 論理的に整理する力
が必要になります。
でも、この感覚がまだ十分育っていない子も当然います。みんな同じ12歳の冬に受験しますが、発達には個人差があります。
早く抽象思考に到達する子もいれば、もう少し時間がかかる子もいる。だから僕は、「努力でどうにかなること」と、「発達段階的にまだ難しいこと」は分けて考えるべきだと思っています。生物学的にまだ難しいものは、難しいのです。
僕は、中学受験そのものを否定したいわけではありません。実際、大手塾のカリキュラムは非常によくできています。
限られた時間で、
- 比
- 規則性
- 特殊算
- 場合の数
などを効率よく処理するための「受験技術」が徹底的に詰め込まれている。そして、それは中学受験というゲームにおいては合理的です。
ただ、僕はそれと、「大学受験や、その後の人生で必要になる力」は少し違うとも感じています。
大学受験では、単なるテクニック以上に、抽象的な概念と向き合う力が必要になります。だからこそ、中学受験で燃え尽きてしまったり、中高一貫校に入学後、「深海魚」になってしまうケースが出てくるのだと思っています。
中学受験は、「早くから努力した子が勝つゲーム」というより、「早くから発達が間に合った子が有利なゲーム」という側面も強い。
それなのに、親は何百万も教育費をかけている。「これだけ払っているのに、なんで…」となってしまう。でも、それは子どもが悪いわけではない。最悪、無駄になってもいいやと思えるぐらいの余裕があって初めて挑戦を検討するべきだと常々思います。
だから小学生の時期は、塾よりもまず、
- 運動
- 読書
- 科学館
- 博物館
- 自然体験
- 文化的な習い事
など、「世界って面白い」と感じられる経験の方が大切なのではないかと思っています。勉強を好きになる前にまず世界を好きになることや勉強以外で努力が成果として結びつく体験が大事だと思います。それが後の学力にもつながっていく気がしています。
中学生は習慣
ここは少しポジショントークになりますが、中学生は親子ともに一番の頑張りどころだと思っています。
塾を経営しておいて言うのもあれですが、塾代は高いと思います。ただ、一つ自己擁護をするなら、中学生向けの高校受験塾は、小学生の中学受験や、高校生の大手予備校課金に比べれば、まだ良心的な方だとも感じています。中学受験や大学受験予備校では、年間100万円を超えることも珍しくありません。
一方で、中学生の塾は、高くても月5万円を超えるケースはそこまで多くない。もちろん安くはありません。
ただ、中学生という時期は、
- 学習習慣
- PDCA
- 時間管理
- 初めての受験
など、「努力の仕方」を身につける時期でもあります。高校受験では、結局「習慣をつけられた子」が強い。しかし多くの公立中の生活だけで学習習慣を一人一人に定着させてくれることを期待するのは難しいかもしれません。高校受験は、単なる受験ではなく「努力の仕方」を学ぶ時期です。
そして、ここである程度良い高校に入ることには意味があります。大学受験のためというより、「自立しやすい環境」に入るためです。
いい高校ほど、
- 自習室が整っている
- 質問に答えてくれる先生が多い
- 進路情報が入りやすい
- 周囲に勉強する空気がある
という環境があります。切磋琢磨できる仲間の存在も大きい。高校生になると、「誰といるか」の影響はかなり強くなると思っています。
さらに今は、昔と違って教材も非常に充実しています。
参考書。
YouTube。
スタサプ。
AI。
昔ほど、「予備校に行かないと情報が手に入らない」時代ではありません。だからこそ、高校生で本当に大切なのは、「自分で学べるか」です。
高校生は自立
高校生になったら、もう親や塾が細かく管理しすぎる必要はないと思っています。むしろ、「◯◯しなさい」と過干渉になることは逆効果です。好きなことをやればいい。
部活でもいい。
バイトでもいい。
趣味でもいい。
大事なのは自分の意思で何かをやること。
ここまで、
- 愛
- 好奇心
- 習慣
を身につけることができたなら、後はある程度勝手にやってくれるでしょう。
もちろん、悩むこともある。失敗もする。回り道もする。
でも、それも含めて「自立」なのだと思います。
その中で、
- 自分は何が得意なのか
- 何が苦手なのか
- 何をしている時が楽しいのか
を知っていく。
教育のゴールは自立ですからね。
お金と教育の相談室シード 代表 加藤祐太


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