中高一貫校の良さ

これまで何度か中学受験について記事を書いてきました。

そのため、僕は中学受験に否定的な人間だと思われているかもしれません。

しかし実際はそうではありません。僕自身、中高一貫校で教員をしていた経験もあり、その魅力もたくさん知っています。

僕が違和感を持っているのは中学受験そのものではなく、過熱しすぎた中学受験です。今回は中高一貫校の魅力について、教員として感じたことを書いてみようと思います。

① ゆとり

中高一貫校というと『ドラゴン桜』のような受験特化の学校をイメージする人もいるかもしれません。

しかし実際に教員として働いてみると、必ずしもそうではありませんでした。

もちろん学校によります。

ただ、東大合格者数の常連である開成や灘、筑波大学附属駒場のような学校ほど、

  • 理科実験
  • 探究学習
  • 英会話
  • 文化祭

といった、一見すると偏差値に直結しなさそうな活動にも多くの時間を使っています。

高校受験がないからこそ、中学時代に遠回りができるのです。

先生たちは知っています。

目先の偏差値だけではなく、

好奇心。

教養。

思考力。

そうしたものが後々の学力につながることを。大学受験の実績は原因ではなく結果なのだと思います。

もちろん、その背景には鉄緑会のような受験専門機関の存在もあります。鉄緑会とは東京大学をはじめとする難関大学受験に特化した進学塾です。開成や桜蔭、筑波大学附属駒場などの生徒も多く通っています。つまり学校側は必ずしも受験対策のすべてを担う必要がありません。

だから「開成は文化祭ばかりやっているのに東大合格者が多い」というよりも、「文化祭や探究活動に時間を使える環境と、受験専門機関が両立している」と考えた方が実態に近い気がします。

学校は教養や人間形成を担う。受験対策は塾が担う。

そんな役割分担が成立している面もあるでしょう。

もし本当に大学受験だけが目的なら、通信制高校に通いながら鉄緑会で勉強した方が合理的です。

それでも超進学校がそうしていないのは、受験勉強だけでは人は育たないと考えているからなのかもしれません。


② 人

そして僕は、こちらの方がむしろ大きいと思っています。

中高一貫校では中学一年生から高校三年生までが同じ学校で生活します。

最大で五歳差。

大人から見ればわずかな差ですが、中学一年生と高校三年生では別人のようなものです。

中学低学年の頃は先生と衝突ばかりしていた生徒も、高校三年生の先輩たちには一目置いていました。

自分たちよりも体格も大きい。会話もハキハキしている。

それでいて先生とも対等に近いコミュニケーションをしている。

そんな姿を毎日のように見て未来の成長した自分を想像できることです。
これは中高一貫にしかできない環境で、これは想像以上に大きいものだと感じています。

生活面だけでなく受験面でも
高三まで部活に打ち込んでいた先輩が東大へ進学した。

文化祭を全力でやっていた先輩が医学部へ進学した。

そんな姿を見れば、

「自分にもできるかもしれない」

と思うようになります。

高校三年生の先輩たちも六年前は同じ中学一年生でした。

だから生徒たちは、「自分もこうなっていくんだな」

という成長のイメージを自然と持つことができます。

そして影響を受けるのは生徒だけではありません。実は先生たちも同じです。

中学一年生の生徒が、

「勉強なんて意味ない」

と言っている。

公立中学校であれば少し心配になるかもしれません。しかし中高一貫校では、その生徒の五年後、六年後の姿を知っています。

同じようなことを言っていた先輩が、高校三年生になって進路について真剣に考えている。

文化祭の責任者として後輩をまとめている。

大学受験に向けて努力している。

そんな姿を何度も見てきたからです。

だから必要以上に焦らない。

人が成長することを知っているからです。

僕は中高一貫校の強さというのは、単純な学力だけではない気がしています。未来の自分を身近に見ることができること。

そして先生たちもまた、その成長の過程を知っていること。それが学校全体の空気を作っているのではないでしょうか。



『二月の勝者』という漫画に、

「入試問題は中学からのラブレター」

という言葉があります。

学校は入試問題を通して、「こういう生徒に来てほしい」というメッセージを送っています。

そして文化祭や学校説明会を通して、その価値観に共感した生徒が集まります。

教員も同じです。

僕も私立学校の採用試験を何度も受けたことがありますが、自分の塾経営の経歴を面白がってくれる学校もあれば、

「この人は自由すぎてうちには合わないな」と感じているような学校もありました。

私立学校には公立学校のような異動もありません。

だから同じ価値観を持った教員と生徒が少しずつ集まり続けます。

その結果として独自の文化が生まれるのです。

僕はこれを発酵食品に少し似ていると思っています。

手前味噌という言葉があるように、同じ大豆と塩を使っていても味噌は全く違う味になります。

同じ地域。

同じ時代。

同じような材料。

それでも出来上がるものは違う。

学校も同じです。

同じ地区。

同じ歴史。

同じ偏差値帯。

それでも学校によって全く違う文化になります。

生徒の雰囲気。先生との距離感。進路への考え方。授業の気質。

そうしたものが何十年もかけて受け継がれていく。だから学校選びは偏差値や大学実績だけでは測れません。

どんな人たちと六年間を過ごすのか。どんな文化の中で育つのか。

それもまた、中高一貫校の大きな価値なのだと思います。

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