僕は塾生たちに
「今、一番自信のある科目は何?」
とよく聞きます。
入塾して間もない生徒を除くと、数学と答えた生徒が6割。理科と答えた生徒が4割弱で他の科目を挙げる生徒はほとんどいません。もちろん、数学だけできても受験は厳しいです。英語も国語も必要ですし、高校受験や大学受験を考えれば数学だけで戦えるわけではありません。
それでも僕は、この結果を見て少し嬉しくなりました。
なぜなら、入塾時に「数学が得意だからもっと伸ばしたいです」
と言って入ってくる生徒はほとんどいないからです。
むしろ、
「数学が本当に苦手で……」
「学校の授業についていけなくて……」
「定期テストでいつも足を引っ張るんです……」
そんな相談の方が圧倒的に多い。
だからこそ、以前は苦手だった子が
「今は数学が一番自信あります」
と言ってくれるのは、やはり嬉しいものです。
なぜ入塾時に「数学が苦手です」と言う生徒が多いのでしょうか。テストの点数を見れば、だいたい理由は分かります。
他の科目は平均点前後取れていても、数学だけ極端に低い。特に内容が分からなくなってしまった生徒の場合、10点台や一桁ということも珍しくありません。
でも、10点しか取れない状況と60点取れる状況では大きな違いがあります。60点取れる学力があれば、学校の授業が全く分からないということはあまりありません。
一方で10点の学力だと、授業で何をやっているのか分からないまま時間だけが過ぎていくこともあります。
数学は積み重ねの科目です。
分数が怪しい状態で方程式は厳しい。
方程式が怪しい状態で関数は厳しい。
だから一度つまずくと、その後も苦手意識を持ち続けやすいのです。
僕自身、教員時代では分数の計算も怪しい中学生から東大を目指す高校生まで見てきました。どちらも指導できなくはありません。
ただ、自分が一番好きで、一番得意なのはどちらかというと前者です。
学校の授業が少し怪しい。
数学に苦手意識がある。
勉強そのものに自信がない。
そんな子を、平均点付近、あるいは平均より少し上くらいまで引き上げること。
そして、「意外と数学できるかも」と思ってもらうことです。
ところで、「数学なんて将来使わないじゃないか」
という議論は昔からあります。
元数学教員として正直に言えば、多くの人は数学そのものを仕事で使いません。
学者、教員、工学系など一部の職業を除けば、二次関数や三角比を日常的に使うことはほとんどないでしょう。
でも僕は、数学を学ぶ価値は別のところにあると思っています。
数字で考える力。
論理的に考える力。
物事を順序立てて整理する力。
そういった力を育てることです。
だから僕は、全員に数学を好きになってほしいとは思っていません。
ただ、「数学はそこまで苦手じゃないかも」と思ってほしい。
数字を見るだけで拒否反応を起こさなければ、数字で考えるクセが残る。その状態まで持っていけたら、僕の目的の大部分は達成できたと思っています。
数学の楽しさを伝えることは大切です。
でも、そのために必要なことがあります。
最低限の点数を取ることです。学校の授業についていけることです。
なぜなら、内容が全く分からない状態では、その教科が面白いかどうかを判断するところまでたどり着けないからです。
最低限の点数を取るための勉強は、正直あまり面白くないこともあります。
計算練習。
反復演習。
暗記。
地味な作業も必要です。
でもそれは、数学を楽しむための入場券のようなものだと僕は思っています。
だからまずは平均点。
そして平均点より少し上。
僕はそこを目指して指導しています。
その結果として「今は数学が一番自信があります」
と言ってくれる生徒が増えていることを、とても嬉しく思っています。


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