学校の当たり前 ③ 理科編|理科の実験は誘導的?

これまで学校教育の改善案について書いてきましたが、僕が5教科の中で最もよくできていると思うのは、理科です。

理科の教科書は、身の回りの現象や疑問から学習が始まることが多く、そこから実験や観察を通して法則や仕組みを理解していく構成になっています。

「なぜ氷は水に浮くのか?」

「なぜ季節によって見える星座が変わるのか?」

まず現象があって、その理由を考える。

知識を覚えることが目的なのではなく、身の回りの現象を科学的に理解するために知識を学ぶ。

この点で、理科は教科としての目的と授業内容が比較的一致していると感じています。

だからこそ、理科教育については大きく変える必要があるとは思っていません。

ただ、強いて改善点を挙げるとすれば、実験のあり方です。

理科の実験には、少し誘導的すぎるものがあるように感じます。

例えば、授業で「塩化コバルト紙は水に触れると青色から赤色(桃色)に変化する」と学び、その直後に実際に水をつけて色が変わることを確認する。

あるいは、実験の手順が細かく指定され、どんな結果が出るのかも事前にほとんど分かっている。

生徒は指示された通りに実験を進め、教科書に書かれている結果が得られれば成功です。

学んだ知識や法則を実際に確かめることにも意味があります。

でも、それだけでは既に分かっていることを確認するための実験になってしまいます。

僕は、もう少し生徒自身が考える余地があってもいいと思っています。

例えば、化学の授業で、正体不明の液体をいくつか用意するとします。

水なのか、食塩水なのか、砂糖水なのか、それとも酸性やアルカリ性の水溶液なのか。

見た目だけでは分かりません。

そこで、生徒たちにこう伝えます。

「この液体の正体を調べてください。」

使えるのは、これまで授業で学んだ実験器具や試薬です。

フェノールフタレイン溶液を加えてみる。

BTB溶液で酸性・中性・アルカリ性を調べてみる。

少量を蒸発させて、何か残るか確認してみる。

もちろん、一度の実験ですべてが分かるわけではありません。

例えば、フェノールフタレイン溶液が赤色になればアルカリ性であることは分かりますが、それだけで物質の正体までは特定できません。

食塩水と砂糖水も、どちらも中性なので、BTB溶液だけでは区別できません。

だからこそ、次に何を調べればいいのかを考える必要があります。

「アルカリ性だから、この候補は違うな。」

「蒸発させたら固体が残った。ということは純粋な水ではなさそうだ。」

「この結果だけでは、まだ二つの候補を区別できないぞ。」

実験して、結果を見て、仮説を修正して、また実験する。

これこそ、理科の面白さではないでしょうか。

予想が外れてもいいんです。

むしろ、予想と違う結果が出たときに、「なぜだろう?」と考えることに価値があります。

理科の実験は、知っていることを確認するだけの時間ではなく、知らないことを自分の力で明らかにしていく時間であってほしいと思っています。

とはいえ、こうした授業を実際の学校で行うのは簡単ではありません。

僕自身、学校で教員をしていたので、その難しさはよく分かります。

生徒の人数分の器具や薬品を用意しなければならない。

準備や片付けにも時間がかかる。

危険な薬品や加熱器具を扱う場合には、安全管理も必要です。

何より、授業時間が限られています。

生徒が自由に試行錯誤できる実験を毎回行うのは、現実的ではないでしょう。

でも、今は以前とは状況が変わってきました。

生成AIがあるからです。

僕は現在、数学のWeb教材を自分で開発しています。

数学の概念を、文章や公式だけではなく、実際に操作しながら理解できるようにする教材です。

例えば、画面上の数字や図形を動かすことで、数学的な仕組みを視覚的に理解できるようにする。

こうした教材を、以前ならプログラミングの専門知識や相当な開発時間がなければ作れませんでした。

でも今は、生成AIを活用することで、教員自身がアイデアを形にしやすくなっています。

これは理科でも同じだと思います。

例えば、画面上に正体不明の液体と、さまざまな試薬を用意する。

生徒は試薬を選び、液体に加える。

すると、実際の化学的性質に基づいて色が変化する。

その結果を手掛かりに、次にどんな実験をすればよいかを考える。

そんな仮想実験教材を作ることができます。

実際の実験では難しい試行錯誤も、画面上なら何度でも繰り返せます。

試薬を使い切る心配もありません。

器具を壊す心配もありません。

準備や片付けに授業時間を取られることもありません。

もちろん、AIが作った実験教材の結果が科学的に正しいとは限りません。教員が内容を確認し、必要に応じて修正することは不可欠です。

それでも、教材を作るためのハードルが大きく下がったことは確かです。

そして、僕は仮想実験が実際の実験に取って代わればいいとは思っていません。

実物の薬品を扱うこと。

器具を正しく操作すること。

予想していなかった変化を自分の目で見ること。

こうした経験には、画面上のシミュレーションでは得られない価値があります。

だからこそ、両方を組み合わせればいいと思うんです。

まず仮想実験で自由に試行錯誤してみる。

自分なりの仮説を立て、どんな実験をすれば確かめられるかを考える。

そして実際の実験で、その予想が正しいかを検証してみる。

これなら、限られた授業時間や設備の中でも、生徒が主体的に考える機会を増やせるのではないでしょうか。

僕が理科教育で大切にしてほしいのは、知識を覚えることだけではありません。

「何が起きるか」を知ることよりも、「なぜそうなるのか」を考えること。

そして、分からないことがあったときに、自分で仮説を立て、確かめる方法を考えられることです。

これは理科の授業だけで役立つ能力ではありません。

日常生活でも、仕事でも、何か問題が起きたときに、原因を考えて検証する力は必要になります。

学校の理科教育には、そうした科学的なものの見方を育てる役割があると思っています。

教科書の内容を覚えて、テストで正解する。

それも大切なことです。

でも、実験の前に結果を教え、決められた手順をなぞり、予想どおりの結果が出たら成功。

それだけで終わってしまうのは、あまりにももったいない。

せっかく実験するなら、生徒にもっと悩んでほしい。

予想を外してほしい。

「なんでこうなるんだ?」と考えてほしい。

そして、自分の考えた方法で何かを明らかにできたときの面白さを味わってほしい。

理科の実験は、答えを確かめるためだけのものではなく、答えを見つけるためのものであってほしい。

5教科の中で最もよくできていると思う理科だからこそ、その面白さをもっと引き出せるはずです。

生成AIの登場によって、そんな授業を実現するための選択肢は、これからさらに広がっていくと思います。

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